2007.03.31 Teenage Cancer Trust

[Setlist]
I Can't Explain / The Seeker / Who Are You / Behind Blue Eyes / Baba O'Riley / Eminence Front / A Man In A Purple Dress / Black Widow's Eyes / You Better You Bet / My Generation / Won't Get Fooled Again

(encore)
Pinball Wizard / Amazing Journey / Sparks / See Me Feel Me - Listening To You / Tea And Theatre


3月の北米ツアーの後半、Rogerの体調が悪く、1公演が延期され2公演がキャンセルされた。22日に復帰し4公演こなすも、短くなったセットリストから、まだ完全に不安はぬぐいきれない状態が伺えた。それから1週間後、The Whoにとって4度目の出演となるTeenage Cancer Trust(以下TCT)。Rogerが後援するチャリティ団体のためのステージ。このホーム(London)でのライブがいかに大切なものかは数日前のPeteの日記にも書かれていた。

渡英前日、私はアンケート「来日期待企画 The Whoに来日公演で聞きたい曲をリクエスト」に集まった曲名とコメント300余りをプリントアウトし鞄に入れた。そして機内で数時間かけ、コメントを全て英訳した。北米は3度もツアーをし、夏には昨年に続き欧州凱旋ツアー。それに対して日本での単独公演は、2006年12月、2007年初頭、2007年4月、2007年秋、冬……と、どんどん先延ばしにされていっている。しかも、噂の段階で。だから指をくわえて待っているだけでなく、出来る限りのことだけはしておこうと思っての英訳だった。

空港で荷物を拾い上げ、地下鉄に飛び乗り、ホテルに駆け込んでチェックイン。会場に着くと、外ではたくさんのファンが楽しいおしゃべりで盛り上がっていた。スクーターで乗りつけてきている人、細身のスーツできめている人。Fred Perryのポロシャツ、Merc Londonのトレーナー、Clarksのデザートブーツ……。見ていて飽きない。アメリカとは対照的に、WHO Tシャツを着ている人が少ないのが印象的だ(季節要因もあるけれど)。

話をしているうちに、気がつけば21:00。前座のバンド2つが終わり、そろそろThe Whoの時間がやってきた。集まっていたファンも、1人、2人とチケットに書いてあるドア番号へ向かって行く。お互いに手を振って、「ライブを楽しもうね!」と声をかけあって……。

会場に入ると、スクリーンには「TCT」のロゴが映し出されていた。今回は黒地にピンク。舞台上では、スタッフが忙しくセッティングをしている。右袖の機材の脇に立つBob Priddenを見て、3年前のTCTとは違う何かを感じて寂しくなってしまった。Ross Halfinがカメラの準備をしているそこには、Matt Kentもいて欲しかった……。
ステージが整うと司会者が登場し、まずはこのイベントの趣旨を説明した。そしてTCTの活動を紹介する短いフィルムがスクリーンに流された。癌と戦う若者達は私よりも年下。胸がつまる。フィルムが終わると、司会者に紹介され、TCTの施設で治療を受けている2人の若者がステージに上がった。1人は病気のために片足を失っている。その彼が観客への挨拶をした後、ガールフレンドをステージに上げ彼女に感謝の言葉を捧げ……告白。「Would you like to marry me?」(結婚してくれますか)と。彼女はプロポーズを受け、二人は抱き合い、会場は割れんばかりの拍手。幸せそうな二人の笑顔は、RogerとThe Whoにとって最高の前座だったことだろう。

しばらくステージチェンジがあった後、とうとうThe Whoの登場。PeteやRogerが袖から現れると同時に、観客は総立ちとなった。1曲目、2曲目はツアーと同じ「I Can't Explain」と「The Seeker」。どうやらRogerの声は大丈夫なようだ。アメリカから帰国して数日しか経っていないので時差ボケもあるはずだが、Peteのおしゃべりも絶好調である。しゃべる、しゃべる、しゃべる。あまりの早口に耳がついていかないところもあった。

次の曲が「Anyway Anyhow Anywhere」でなかったことで、セットリストがショートバージョンだと気づいた。3曲目に演奏されたのは「Who Are You」。続いて「Behind Blue Eyes」。スクリーンに映る映像が新しい。2006年のときのものとは、何ヶ所か違う演出になっていた。

「Baba O'Riley」では、Royal Albert Hallに雪が降ってきたかのようなライティングがとても綺麗だった。そしてキーボードの音を聴いて、Rabbitが戻ってきてくれたことを実感した。
「Eminence Front」は毎度のことながら”休憩の曲“。大合唱でノッていた40、50代のファンたちも、この曲ではひとまず腰を下ろして休憩。(私を含め)それでも立ち続けていたのは、1ブロックに1、2人といったところだったろうか。

ミニオペラのメドレーはなかったが、新作からは「A Man In A Purple Dress」と「Black Widow's Eyes」が演られた。新曲に対するRogerの声の出具合も、9月にアメリカで聴いた時よりも良くなっていると感じたのは気のせいだろうか。それから(以前のレポートでも書いたかもしれないが)、「Black〜」でのSimonのコーラスが素晴らしい。スポットを当ててあげたいくらいである。ステージ衣装だって、モッズらしさ(モッズ御用達ブランド)に一番こだわっているのはSimonである(余談)。

「You Better You Bet」で加速がついたところで、「My Generation」と「Won't Get Fooled Again」に突入。会場は沸点に達した。円柱に蓋がついたようなRoyal Albert Hallの屋根が外れるかと思うほどに、The Whoの演奏と観客の大合唱が高く高く、上へ上へと伸びていった。すごいエナジーに包まれた感じだった。

さて、メンバー紹介についてだが、どの曲間で行われたのか、さっぱり記憶にない。「My Generation」の前だったか。それとも本編が終わった後だったか……。とりあえず、メンバー紹介はいつもよりも長かった。特にPino。Johnが亡くなり急遽2日間だけのリハーサルで参加してくれたときのことから、細々と全部説明してくれた。最後にはPeteらしい意地悪な愛情表現で、「百何十回一緒にやって、やっと馴染んできたね」みたいなことを言っていた。それから彼のことを「イタリア系ウェールズ人。いや、ウェールズ系イタリア人かな」なんて。
Simonの紹介の時には、彼が子供の時にThe Whoが『TOMMY』を演奏するステージを見にきたエピソードが語られた。その時PeteがSimonの子守りを頼んだのがDavid Bowieだったとのこと。子供口調でSimonやBowieの物真似をするPeteが面白い。
そしてZak。いつもの通り「On Drums」(ドラムは)と言ったところで間を置くと、会場は名前を聞かずとも拍手と歓声。それに合わせてZakもドラムスティックを掲げて四方に挨拶。Peteの口からZakの説明は何もされなかったが、意外な話が飛び出した。「Zakと一緒にやっていたMarrが参加しているMagic Mouseがアメリカのチャートで1位になった」と、いきなり話し始めたのだ。Johnny Marrが現在参加しているバンドが、先週ビルボードで1位になったことを知っていた私は何の事だか分かったが、他の観客はポカーンとしていた。仕方がない、あまりに唐突な上、Peteはバンド名を間違えていたのだから。Magic Mouseではなく、正解はModest Mouse。これにはPeteも変だと思い、「Magic Mouse?Magic Mouse?」と何度か自問自答のようにつぶやき、背後からZakの訂正を受けてやっと「Modest Mouse」と言い直したのだった。これはMarrと5年以上も一緒にHealersをやっていたZakからの、同僚へのささやかなお祝いだったのかもしれない。
最後はRabbitの紹介。先の北米ツアーの最後の4公演を離脱していたが、今日は復帰してくれていて本当に良かった。最愛の妻が癌で苦しんでいるRabbitがこのTCTに出演できた意義は、Peteの口からも語られた。そしてファンから愛と応援を込めた熱い拍手が贈られた。

紹介されたのはサポートメンバーだけではなかった。2階のテラス席にスポットライトが当てられ、Peteから紹介されたのはジャケットデザインでおなじみのPeter Blake御大と、『TOMMY』の映画監督Ken Russellだった。「Ken、忙しいところ来てくれてありがとう」とPeteが言うと、監督はにっこり笑い手を振っていた。
そして監督の前で演奏されるアンコールの『TOMMY』メドレー。なんだかいつもよりパワフルだった。Peteは腰を低くしギターをかき鳴らし、それに負けじとZakがドラムを打ち鳴らす。「Sparks」では勢いあまってスティックが折れていたようだった。Pete vs Zakの掛け合いを正面から見ていると、ミラーのようになっているツーバスにPeteの赤いギターが映り、まるでバスドラの中で炎が揺らめいている様だった。これは今回初めて気がついたことだった。

最後の「Tea And Theatre」が終わると、PeteとRogerが肩を組んで挨拶をした。そしてRogerからいつもの「Be Lucky」の一言が。TCTの後援者でありながら、今夜もほとんど何もしゃべらなかったRoger。でも、その笑顔と「Be Lucky」の一言から、力づけられた人はたくさんいたと思う。私も“be lucky”でありたい……。

ちなみに、ライブ中に紹介されたPeter BlakeとKen Russellの他にも、Robert PlantやIan McNabbらも見にきていた。もちろん、メンバーの家族や親戚、友達なども。そして、嬉しかったのはKeithのパーソナルマネージャーだったDougalの姿もあったこと。彼は25年ほど前にZakのバンドのマネージャーもやっていたことがある。こういった懐かしい人たちも集まり、今夜のTCTはホールでの演奏ではなく、ホームでの演奏と言うのがぴったりの、暖かいものだった。

またホームでライブを見たい。でも、その前にまずは再来日を果たしてもらいたい。私たちの300余りのメッセージが、きっと彼らを日本へ導いてくれると信じて……。

4月9日。TCTからたった9日後、Rabbitの最愛の妻Sue Bundrickが他界した。このライブレポをRabbitとSueと彼らの家族、そして癌と戦う全ての人に捧げたい。

(2007/05/02 b-ko)


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