INTERVIEW 002

『ザ・フー:アメイジング・ジャーニー』インタビュー


2008年11月に日本でも公開された新作ドキュメンタリー映画『ザ・フー:アメイジング・ジャーニー』。翌年2009年にDVDとして発売された本作の制作に関わったポニーキャニオン担当者の方にお話を伺ってみました。


Q.ザ・フーの映像作品の集大成ともいえる『ザ・フー:アメイジング・ジャーニー』がついに4月1日に発売されました。評判、売れ行きはいかがですか?

非常に好調です。発売日の《オリコン・デイリーチャート》では総合で初登場第17位、音楽チャートでは初登場第6位に入る好スタートとなり、現在も堅調にバック・オーダーが入っています。今回、2枚組コレクターズ・エディションと4枚組デラックス・エディションを同時発売しましたが、税抜\10,000という高額商品にも関わらず圧倒的にデラックス・エディションが売れており、内容的にも好評をいただいています。このDVDが若い世代の方たちにとってザ・フーを知る良いきっかけになれば、と切に思います。


Q.今回、デラックス・エディションは4枚組の大作ですが、特に見所はどこですか?

やはり、今回初めて発表された1977年のキルバーン・ライヴと1969年のロンドン・コロシアム・ライヴです。キルバーンは、映画『キッズ・アー・オールライト』用に撮影されたオリジナル・メンバーによる最後期のライヴ。この後はシェパートン・スタジオでのクローズドなスタジオ・ライヴしか行なっておらず、一般観客を前にしたライヴとしてはキルバーンが最後だったと言えると思います。バンドとして1年間のブランクを経て行なわれたライヴということで、メンバーが演奏面で満足できず結局未発表になったというのが通説ですが、内容的に出来が悪いかというとそんなことはなく、その荒々しさや危うさがザ・フーの魅力、もっと言うとロック本来の魅力を見事に体現したものになっていると思います。
本作のプロデューサー、ナイジェル・シンクレアにキルバーン・ライヴが今日まで未発表となった理由を直接聞いたのですが、「シェパートン・スタジオでの再撮影にキースがキルバーンと違う衣装を着てきたため、映画的な繋がりを考慮するとキルバーンのライヴ映像を『キッズ・アー〜』で使えなくなってしまった」、と。キルバーンとシェパートンを比較すると、確かにキースだけ着ている衣装が違う。監督のジェフ・スタインの当初の意図としては、やはりキルバーンとシェパートンの素材をミックスして『キッズ・アー〜』に使用したかったのでは、と思われます。いかにも破天荒なキース・ムーンらしいエピソードですね。

またロンドン・コロシアムでのライヴが行なわれた1969年は、傑作アルバム『トミー』を発表しウッドストックに出演した年で、まさにザ・フー絶頂期のライヴ映像のひとつと言っていいと思います。ロンドン・コロシアムは格式あるオペラハウスで、「クイック・ワン」『トミー』といったロック・オペラの演奏のためにライヴ会場として選ばれ、この会場でロック・コンサートを行ったのはこれが初めてとのこと。残念ながら照明など撮影の状態があまり良いとは言えず、そのためにお蔵入りとなったという記録がありますが、この時期のザ・フーのフル・ライヴ映像ということで、非常に貴重なものです。本DVDではほぼその全貌が明らかとなり、若いピートによる曲の解説MCもしっかり収録されています。

ディスク2にあたるアナザー・ドキュメンタリー『シックス・クイック・ワンズ』は、『アメイジング・ジャーニー』に収まりきらなかった各メンバーのエピソードや、「リアル・グッド・ルッキング・ボーイ」の貴重なレコーディング風景を収録しており、ザ・フーについてより深く掘り下げる内容になっています。ジョンやキースのプレイに関するテクニカルな解説は面白いですよ。また「リアル〜」のレコーディング風景は、ザ・フーの楽曲制作のプロセスと同時にロジャーとピートの関係性が垣間見える興味深いもの。長い年月を共にした2人の間にある役割分担と信頼関係、そしてお互いを思いやる気持ちが凝縮されていて、音楽を超越した何かを感じ取ることが出来ます。ザック・スターキーやラビットといったサポート・メンバーの仕事ぶりを見れるのも貴重。


Q.パッケージやレーベルのデザインがとても魅力的です。デザインの方針で心がけられたことはどのようなことですか?

先行してアメリカで発売されていたDVDのアートワークがあまり日本向きでないと思い(往々にしてそうなのですが)、日本のオリジナル版を制作することにしました。コレクターズ・エディションについては、劇場公開時に制作したキーアートをDVD用にアレンジして使用し、またデラックス・エディションについては、ザ・フーの決定版ドキュメンタリーのボックス・セットの名に相応しいデザインを、ということで色々と模索し、ブリティッシュ・ロック・バンドなのであまり色を使いすぎず、シンプルかつ重厚感のあるものを目指しました。やはりザ・フーと言えばあのターゲット・マークのバンド・ロゴということになるのですが、「2009年に生き続けている」というコンセプトでロゴ・マークのカラーリングをリアレンジしてこれまでにない新しいイメージを打ち出すとともに、ボックスの紙素材をメタリックなものにしてロゴ・マーク部分に凹凸を施すことで、非常にクールなものに仕上がったと思います。

ピクチャーレーベルは単純なカラー印刷では面白くないと思ったので、印刷には透明インクという素材を使い銀盤の質感を最大限生かしたものを目指し、外箱のメタリックなイメージとうまく統一感が出たと思います。またディスクのナンバリングについては、ピートがレスポールにナンバリングしていたことに着想を得て、デザイナーさんにギターの写真を見せ「これとそっくりな書体の数字で」とリクエストしました。買っていただいたファンの方が「ニヤッ」としてくれると嬉しいです。初回版には劇場公開時に販売したパンフレットをミニチュア化したものを封入しました。劇場で観れなかった方に喜んでいただければ、と思っています。プロデューサーのナイジェルに見本品を送ったところ仕上がりに非常に満足してくれ、意気揚々とザ・フーのマネージメントに手渡してくれたようです。


Q.そもそも商品化の企画はいつごろ立てられたのですか?また、このような豪華な作品になるまでには、いろいろな経緯や変遷があったと思います。とくに重要なターニングポイントはどのようなことでしたか?

この企画について最初に知ったのは2005年の6月のことだったので、DVDが発売された2009年4月1日まで約4年の時間を要したことになります。私は洋画の買付セクションに所属しており、ドキュメンタリー映画の新作としてイギリスのセラーから情報が入ったのです。そのセラーからは過去に『フェスティバル・エクスプレス』『グラストンベリー』という音楽ドキュメンタリーを購入した経緯があったため、我々はかなり早い段階で企画情報を入手したと思われます。ザ・フーは洋楽ロック・アーティストとしてビートルズ、ローリング・ストーンズに肩を並べる大物バンドであり、このようなコンテンツを獲得するチャンスは滅多にないと判断し、すぐに具体的な検討に入りました。この時点で作品のタイトルは“My Generation:Who’s still Who”と呼ばれており、後に“Amazing Journey:The Story of The Who”に変更となります。
当初から本作はFilm A〜Cの3つのコンテンツのパッケージ企画としてインフォームされ、Film Aはザ・フーのヒストリカル・ドキュメンタリー、Film Bは彼らの音楽性や文化的背景に関するドキュメンタリー、Film Cは未発表ライヴ映像ということで、キルバーンとロンドン・コロシアム、リーズのライヴ映像が含まれる予定、となっていました。リーズの映像が未発表であることは知っていた(というより、そんな素材が存在することにまず驚いた)のですが、キルバーンやロンドン・コロシアムについてはその貴重性や、本当に初出なのか(ブートレッグなどで既に流通していないか)など詳しく調べる必要があり、洋書の記録文献などをくまなく調べ、価値の見極めを行ないました。また、収録楽曲の内容や素材のクォリティをチェックする必要があり、LAの当社関係者に編集中のフッテージを直接観て確認させたこともあります。諸々の概要が確認できた時点で、正式に契約に至ったと言う訳です。

実はアメリカでは本作は2つの別の会社からリリースされています。『アメイジング・ジャーニー』と『シックス・クイック・ワンズ』は2枚組DVDとしてユニバーサルから、キルバーンとロンドン・コロシアムについてはImage Entertainmentという会社から2枚組DVDおよびBDでリリースされています。実はImage EntertainmentのDVDに収録されているロンドンの一部ライヴ映像が当社に支給されておらず、US版との内容的格差が生じるのを防ぐためプロデューサーに掛け合った経緯があります。交渉は無事成立し、ロンドンの映像はUS版とまったく同じものを収録することができました。更に言うと、US版に収録されていない1970年のライヴ・アット・リーズの映像が収録されているのは現時点では日本版DVDだけです。
BS朝日の小林克也さんのテレビ番組《ベストヒットUSA》から熱烈なリクエストを受け、素材の一部を貸し出してOAされましたが、ぜひDVDでその全貌を観ていただきたいと思います。当社に限らずCDやDVDで各国版の収録内容などに差異が生じていることがよくありますが、そのようなことが起こる訳が今回の一連のやり取りや交渉を経て何となく分かったような気がします。


Q.映画公開とDVD発売時期は、どのように決められてましたか?

正式に契約を締結してから完成までに約2年を要し、完成した素材が日本に到着したのは2007年の夏でした。一般の目に最初に触れたのは同年9月のトロント映画祭、その後10月&11月にニューヨークとロンドンでプレミア・イベントが行なわれました。日本では劇場公開を前提に作品の買付を行ったので完成と共に公開時期の検討に入ったのですが、急遽ザ・フーの来日公演の予定の話が浮上したため来日に合わせた劇場公開を目論見、日程がフィックスするまでしばらく待ちの状態に入りました。予定はなかなか固まらず、当初2008年3月だった来日予定が9月に伸び、これはさすがに待っていられないかも、と諦めかけた時に突然来日が2008年11月に決定した、と。これが判明したのが2008年3月中旬で、すぐに11月の公開を仮決定し劇場のブッキングを行ったという訳です。
DVDの発売については、来日&劇場公開からあまり間を空けず、ということで公開から約4か月後の4月1日に決定しました。来日公演の話は作品取得当初からあったものの所詮半信半疑で、企画が具体化する途中においても過度な期待は持たないようにしていました。結果的に映画の公開と来日公演がマッチしたのは非常にラッキーだったと思いますが、それ以上にザ・フーの単独来日公演が実現したことが何より素晴らしかったと、一人のロック・ファンとして思います。


Q.そして本家ザ・フーの単独来日公演がありました。ファンの盛り上がりや実際のライヴに接して、どのような思いを持たれましたか?

来日公演には武道館の初日と追加の2回、足を運びました。追加公演ではアリーナの非常に良い席でステージを体験でき、これは一生の思い出です。終演後にロジャーの楽屋に通していただきました。実は2007年11月のLAハリウッド・ボウル公演のバック・ステージにも入れてもらったのですが、残念ながらメンバーとは接触できなかったので感激もひとしおでした。また、東京公演の合間を縫ってロジャーの単独取材を行い約半日を共に過ごしたのですが、その間はファンであり仕事である自分の立場が妙に落ち着かなく、フワフワした感じの中で忙しく過ごしたことが思い出されます。実際に会ったロジャーは小柄ながらがっしりした体格の人で、さすがにザ・フーの看板ボーカリストという感じ。フレンドリーながらプロとしてのポリシーもハッキリしており、体調(特に喉)にとても気を遣っているのが印象的でした。一方ピートについては、当初から接見のハードルが非常に高いと言われており、来日中も遂に直接会うことは出来ませんでした。マネージメント・サイドの対応も「ピートは特別」という感じで、ビジネス・マターについてはほとんど関わらせていないようです。

来日公演は待ちに待ったファンの熱気が武道館に充満している感じで、非常に雰囲気の良いライヴだったと思います。代表的な曲に限らず「エミネンス・フロント」や「シスター・ディスコ」といった80年代の楽曲を練り込んでくるあたり、ピートの「単なるヒット・パレードは死んでもやらないぞ」というイギリス人の意地が垣間見えた気が(笑)。とにかく2008年の日本でザ・フーを観れたという達成感と共に、「俺たちは死んじゃいない」という気概を見せつけられた素晴らしいライヴでした。


Q.この作品を担当されて、改めてザ・フーをどのようなバンドだと思いましたか?

日本のロック・ファンの多くは、ザ・フーについて「マイ・ジェネレイション」の頃の“怒れる若者”という浅薄なイメージしか残念ながら持ち得ていない(以前の私もそうでした)のでは、と思いますが、『ザ・フー・セル・アウト』『ア・クイック・ワン』『トミー』という流れを経て、音楽性や詩の世界、コンセプト・メイキングにおいて驚くべき進化を見せたバンドなのだ、とつくづく感じました。日本における評価の低さは、言語的な障壁によるものも大きいと思います。ザ・フーを知らない若い世代の人たちに薦めたいのは、一度じっくりとアルバム『トミー』と向き合って歌詞カード片手にその世界観に没頭して欲しい、ということ。詩の世界観と同時にトータル・アルバムとして如何に楽曲的に練り込まれてこのアルバムが構成されているか。これに気付くことによって、オーディエンスとしての自分の成長が確実にある、と僕は確信しています。音楽が消費文化として右から左に聴き捨てられている時代、“聴く価値あるもの”を探して古きを探究するのは意味のあることですし、そういう価値のあるものは永久に古びないのだと思っています。

また、音楽性もさることながら、現存メンバーのロジャーとピートの2人の生き方についても深く考えさせられました。「とにかく、自分たちが信じた音楽をやり続けるんだ」というシンプルな思想。キースやジョンが死してなお、その姿勢を貫き通す強さ。今や決して若くはないお互いを支え合いながら、もう一歩、もう一歩と歩を進めようとする飽くなきアグレッシヴな精神。ヤワな現代日本人として、2人から得るべきものは少なくないと感じます。


WHO's Generation: 本日はお忙しい中、興味深いお話をどうもありがとうございました。

(2009/4/30 質問:元ファンクラブ会長前澤陽一氏、編集構成:b-ko)



映画のチラシ、ダブル鑑賞券、特典缶バッジ


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